ブログ/海外赴任が決まった人の英語準備——出発までの逆算計画
海外赴任が決まった人の英語準備——出発までの逆算計画
·AIで英語 編集部
海外赴任の辞令が出てから出発までの数ヶ月で、英語力を全体的に底上げしようとすると、たいてい間に合いません。この期間にやるべきなのは、**「英語力を上げる」ことではなく「使う場面を先に決めて、その場面だけを反復すること」**です。言語の処理が負荷なく回る状態になるまでには長い時間がかかることが指摘されており(Segalowitz 2010)、数ヶ月で全域をまかなうことはできません。だから範囲を絞ります。効く条件は、場面の特定・失敗の影響による優先順位づけ・本番と同じ形での反復の3つです。
辞令が出た日の夜、あなたはスマートフォンで「ビジネス英語 短期集中」と検索している——。ブックマークが十数件たまり、単語帳を一冊買い、それでも赴任初日の会議で自分が何を言うのかは、まだ決まっていません。この記事では、赴任準備を業務と生活に分けて逆算する手順を解説し、残り時間の割り方を紹介します。
「全体的な底上げ」が間に合わない理由
英語の知識を持っていることと、その知識がその場で口から出ることは、別の能力です。文法を説明できても、会議中の一瞬で文が組み上がらない。この差は知識の量ではなく、知識が使える形になっているかどうかの差です。
DeKeyser (2007) は、説明できるかたちの知識が実際に使える技能へ変わるには、その技能を使う練習そのものが要ると整理しています。読んで理解する練習をいくら積んでも、伸びるのは主に読む力です。練習した内容に近いものが伸びる、というのが基本線になります。
さらに Segalowitz (2010) は、流暢さを「速く話せること」ではなく、処理が安定して負荷なく回っている状態として捉えています。この安定は短期間では手に入りません。だから出発前にやるべきは、全域の底上げではなく、着任後の最初の30日に起きる場面だけを、使える形にしておくことです。
言い換えると、準備の成否は勉強量ではなく範囲の決め方で決まります。範囲を決めずに始めると、教材だけが増えて、初日に使えるものは何も残りません。知識を口から出る形に変えていく話は、瞬間英作文と手続き化とも重なります。
業務と生活を分けて、優先順位をつける
赴任準備を難しくしているのは、業務の英語と生活の英語が「英語」という一語でひとまとめにされていることです。この二つは、必要な語彙も、うまくいかなかったときの影響も違います。まず分けます。
業務側は、会議・報告・交渉の3つに割るとおおむね収まります。会議で要るのは、発言権を取る一言と、聞き返す一言。報告で要るのは、数字と経緯を決まった順番で並べる型。交渉で要るのは、条件をいったん保留する言い方と、合意内容を確認する言い方です。求められる発話がそれぞれ違うので、まとめて練習しても身につきません。特に会議は、英語力以外の要因も絡みます(会議で話せない3つの理由)。
生活側は、住居契約・銀行口座・病院・行政手続き・学校が中心です。並べる基準は「やり直しがきくかどうか」。契約書のサインや医療の場面は、聞き間違いの影響が後々まで残ります。買い物や近所づきあいは、うまくいかなくても翌日にやり直せます。だから前者から準備します。
この優先順位づけには、もう一つ効果があります。範囲が決まると、何をやらないかも決まる。出発前の可処分時間は限られています。やらないことを先に決めないと、時間は足りなくなります。
出発までの逆算——残り時間の割り方
残り3ヶ月なら、最初の1ヶ月は「場面の棚卸し」に使います。着任後の30日に起きることを、時系列で紙に書き出す。空港での入国審査、住居の内見、銀行の窓口、初回の部門会議、最初の週次報告。ここで出てきた場面のリストが、そのままあなた専用の教材の目次になります。
次の1ヶ月は、場面ごとに自分の発話を作ります。丸暗記ではなく、単語や数字を差し替えられる型として持つのがコツです。そして最後の1ヶ月は、同じ場面を声に出して繰り返します。
ここで効くのが、同じタスクを繰り返す練習です。Bygate (2001) は、同じ話す課題を反復すると、産出される言語の中身と、その制御のされ方が変わっていくことを報告しています。一度目は内容を考えるだけで手一杯だったものが、二度目以降は言い方のほうに注意を向けられるようになる。本番と同じ場面を先に踏んでおく価値は、ここにあります。
なお、この計画は「赴任までに英語が話せるようになる」ことを目標にしていません。目標は、最初の30日を乗り切る型を持って飛行機に乗ることです。英語そのものは、着任後の実務のなかで伸びていきます。順番の問題であって、あなたの努力不足の話ではありません。
荷造りの前に、現在地を測る
範囲を絞るには、いま自分がどこにいるのかが分かっている必要があります。リスニングだけが極端に弱いのか、語彙は足りているのに口から出ないのか。ここを取り違えると、せっかく絞った範囲そのものがずれます。
「AIで英語」の無料レベル診断は、5分で技能別の現在地をCEFRという共通の物差しで返します。そのうえで、弱点に合わせた毎日のメニューをAIが提案します。出発までの日数は、もう決まっています。距離を測ってから歩き出したほうが、同じ時間でも遠くまで行けます。
参考文献: Segalowitz, N. (2010). Cognitive Bases of Second Language Fluency. Routledge. / DeKeyser, R. (2007). Practice in a Second Language. Cambridge University Press. / Bygate, M. (2001). Effects of task repetition on the structure and control of oral language.